秋の夜長を言い訳にして寝てる

最近ずっと眠い。

眠眠です。もう眠眠みん。

18時に家に帰ってから布団にダイブして寝てた。

4時間くらい寝たけれど、まだ眠くて困る。

 

小学校のときからずっと眠かったな。

そういえば。

すぐに寝つけるから羊を数えたことも薬を飲んだこともない。

いつでもどこでも眠いから、布団に入ったら即寝落ち。

机でも人ん家のベッドでも倉庫や車の中でも余裕で寝れるから、私の体はめちゃくちゃ便利だった。

どこにでも適応できる気がする。

たぶん、アマゾンの奥地でもエジプトのミイラの横でも寝れる。

危機感とか全く感じないたちだし、

きっと体は旅向き仕様になってるんだと思う。

旅人や旅行者に1番必要なスキルてどんなとこでも寝れることだと思うんだよね。

私の体は本来、アウトドア向きなんだよ。 

心の内はめちゃくちゃ引きこもりのインドア体質だけど。

うーん、相反してるなあ。

折り合いつけながらも、私の体の性質の方が身についたらいいんだけど、

 

もう、眠いから今日も寝よう。

コスパの悪すぎる体は外歩いただけで疲れちゃってるし。

眠いなあ、眠い。

明日も明後日もずっと眠い。

いつかどこまで寝れるから睡眠チャレンジやってみようかしら。

おやすみなさい。

帰る町の探し方

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塔の上に王子様がいると聞いた。
私は電車に2時間揺られて彼の元に向かった。
SNSには金色の冠に真っ青なスーツを着て笑う彼の写真がアップされていた。
人差し指と親指で写真をひきのばしては顔と体の輪郭をなぞる。
彼のために、わざわざデパートで青いワンピースと靴を買ってきた。
デパコスで化粧もして、髪も1時間かけて巻き上げた。
こんなお嬢さんみたいな格好ははじめてだ。
ポケットティッシュしか入らないようなバッグを提げて家をあとにした。

目的地に着いた。
日は暮れかけていた。
レースでしかおおわれていない腕には鳥肌がたっている。
彼に暖めてもらえば良い。
私は無駄に体を動かして外気に肌を触れさせた。

塔は閉まっていた。
開く時間はとっくに過ぎていた。
すぐにスマホで確認した。
私が見た時間はまだあと2時間は大丈夫だったはずだった。

「昨今の状況により閉園時間は早まっています」

ぬかった。
私はいつもこうだ。
地団駄を踏んで懇願して看守の前で1回転してみても、中に入ることは許されなかった。
当然だ。
おしまいだ。
何のために私はここに来たんだ。
塔の反対側には城があった。
昔、彼が住んでいた場所だ。
彼は過去を懐かしがっているから、もしかしたら窓から城を眺める彼に会えるかもしれない。
私は駆け出した。
かかとはすりきれてストッキングに血がついている。

階段をひたすらのぼった。
上にたどりつくまでには1000をこえる段差があった。
一本道しかないのに。
看板だってたっているのに。
ただ、ひたすら長い階段をかけあがった。

学校の屋上とおなじ作りの部屋だった。
天窓も望遠鏡も何もない。
石碑が飾られているだけのおかしな部屋だった。
私は西の空を見つめた。
そこに彼が住む塔があった。

左手をのばしてふってみた。
彼の姿は見えるわけがなかった。
会いたかった。
会って「君だけだよ」と言ってほしかった。
「僕には」
「君だけが」
「僕だけが」
「君には」
ずっと、耳鳴りのように囁いていてほしい。
彼が1つ私の願いを叶えてくれるなら、全てを彼の糧としてあげられた。
けど、彼の姿が見えないのなら
それじゃあ意味がない。

日が塔の背からはみ出した。
私の姿を照らす。
城に佇む影が私の足元からのびて街に降りる。
塔は依然と暗いまま。
なんて、さらに黒く塔を染め上げる。
彼はいない。
ここにいない。
帰りなさい。
帰って。
あなたの家に。
帰れ。
帰れ、
かえれ、

私はここで在りたかっただけなのに、それをこの街は許さないようで、
そもそも遅い時間に辿り着いたことがよくなかった。
誰も私を許してはくれない。
また私は私の町に所在なげに居座るしかない。
穴のあいた真っ赤なジャージとクロックスを足にかけるくらいが調度良いのかな、やだな。

村田沙耶香のユートピア展

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原宿に行く機会があったから、その帰りに個展に行ってきた。

村田沙耶香ユートピア 正常の構造と暴力 ダイアローグ デヴィット・シュリグリー=金氏徹平」て個展。

前に、Twitterで見かけたからこの夏訪れる候補の1つにあげていた。
期間限定の展覧会はいつも事後報告のような形でしか見つけられなかったから、期間中に見つけられたのがとても嬉しい。
けれど、場所は原宿で私の家からちょいと遠いし、面倒くささと引きこもり特有の外出萎縮病を発生し、辿り着けるか謎だった。
Gyreてビルの中でパンフレットを手にしたときは、もうそれだけで達成感。
よかった、ちゃんと来れた、安心安心。

真っ白い四角の部屋は息がつまったけれど、部屋に置かれた絵が窓の役割をしていたからすいすい見ることが出来た。
感想 : とてもとても面白かった!

1つ目の部屋には、村田沙耶香の絵と制作ノート、デヴィッド・シュリグリーの絵と金氏徹平の作品があった。
人のノートを見るのは背徳感あって好きだし、村田沙耶香のノートを見れてとても嬉しかった!
作家のノートを見れるなんてレアレアすぎて感謝ーて参拝しながらぐるぐるテーブルを回る。
ノートには「消滅世界」の設定と時間軸が書かれていた。
村田沙耶香は作品の登場人物の似顔絵をよく描くと言っているのは聞いていたけれど、その絵を見たのはたぶん初めて。
デフォルメされた女の子の絵はかわいかったのに、「子どもちゃん」だけはかわいいような禍禍しいような、気持ち悪さを感じた。

そんな夜の夢↓
私を真ん中にして2人の「子どもちゃん」と一緒に手をつなぎながら椅子に座った。
「子どもちゃん」は白いテーブルクロスの上にある料理(コロッケとか、ビーフシチュー)を手掴みして、口の中にいれてくれる。
お皿をいくら空っぽにしても料理はいくらでも出てきて「子どもちゃん」は笑いながら私の口にご飯をつめこんでく。

怖。うなされたわ、
夢の中で「子どもちゃん」たちを怖がらなくてよかったー。

2つ目の部屋には、デヴィッド・シュリグリーと金氏徹平の作品。絵もあっけどオブジェが中心。
このオブジェがめちゃくちゃ面白かった。
骸骨の模型があったのだけど、ニョロニョロとかのフィギアがくっついていた。
遠目から観たら骸骨だーて思ったのに、近くで見たらぐちゃぐちゃの人間もどき。
ホムンクルス的骸骨。
別にちゃんとした骨で組み立てなくても人間の形にはなるんだね。
それなら、私は耳かきやペンライトを指にくっつけたいな。それで園田のぬいぐるみを胴にしたい。抱き心地抜群だもん。
ボンドとか白いセメントを上からぶっかけたみたいな造形物もドラえもんとか人形のフィギアとかで組み立てられてた。
面白いな、こんな身の回りのもので気味の悪いもの作れるのかー。
私もゴミをかき集めてタワーでも作ろうて決めた。

3つ目の部屋はぽったんぽったんて音が鳴るから何事かと思っていたら、幽霊船が展示されていた。
それと骸骨の模型。
コンビニ人間の表紙の映像と絵も数点。
ここで気付き。
私はコンビニ人間の表紙にある建物の中に入っていたこと。
したら、ちょっと気味の悪さ。
ホムンクルスの骸骨も、幽霊船も、展示されてる作品はみんな人間の形を構成しているもの。
形がちょっと整ってれば中身なんでも良いんだよ、て思ったりしたり。
ご、ごうまん~~。
気味悪くなってさっさと退散してしまった。

廊下には村田沙耶香の学生時代描いた絵やコラージュが飾られていた。
コラージュがかっこよすぎて痺れ。
おしゃれだな。

現代アート初心者で、解説も無しだったからわからなさ満点だったけど、最高っに面白かった。し、絵もはっっとするほどかっこよかった。
中でも、象の絵がとても好き。
あんなポスターがほしい。
絵の中に

「ELEPHANTS NEVER FORGET
BUT THEY WOULD LIKE TO FORGET」

て英語があった。
この言葉とても好き。

忘れたい思い出はめちゃくちゃある。
けど、そう簡単に忘れられなくてめちゃくちゃ泣く。
それでも象はそんな姿見せずに生きている、とかかっこよすぎるし切なすぎる。
怒ってないけど、許してもいない。
ただ忘れたいと思っているだけ。
諦めでもないこの向き合い方は何て言えばいいのかしら、
私もそんな風に思えることてできるのかしら、
て思ったり。

楽しかったな。
久々、外出て良かった。

たまたまたまご

卵を上手くわりたい。

つるんとした白身の中にぷっくい浮かぶ黄身とかかわいすぎる。

なるべく、形を損ねないようにして姿を眺めていたい。

あわよくば、原形を留めたままきれいに焼きたいなあ。

フライパンの縁とか、階段のとんがりとか、

妹の頭とか、ぺスの尻尾とか、

打ち付けてみたけれど、黄身がさけちゃうんだよね。

透明な白身が黄色くにごる。

こんなんじゃあ、だめだ。だめすぎる。

Googleに検索をかけてみた。

「卵、綺麗、わり方」

検索。ポチ―、

出てきた、出てきた、出てきましたよ、奥さん。

13200000件ものわり方が。

あなたも、わり方検索してたんでしょ。ポチ―、

1番上のサイトをあたってみると、生卵、ゆで卵、温泉卵のわり方が掲載されている。

なんて有能なサイトなんだ。

ドライブスルーの商品を間違えてお客さんに渡しまくる私より、有能すぎる。すげーなー。

内容を確認してみると、卵は平らな場所や角っこにぶつけて割るのではなく、円柱状のものにぶつけるといいらしい。平らな場所や角っこは勢いがつきすぎて卵にヒビが入るんだって。なーるなーる。

卵にヒビが入るという表現が気に入った。

知的な卵にヒビが入る。無邪気な卵にヒビが入る。濡れた卵にヒビが入る。

何でもいけるじゃん。けたけた、

ねえ、円柱状のものってなにかな。そんなもの、家にそうそうないぞ。

節約中だからワインの瓶なんてないし、ツナ缶ややきとり缶は背丈が低すぎる。

どうしたもんかね。

卵をお手玉みたいに空中に放り投げてはキャッチ。放ってキャッチ。

ぽーん、ぽーん、ぽん、

あら、あるじゃない、手頃な円柱が。

私はドアを開けて、外に出た。

サンダルがわりにクロックスを足につっかけて階段をかけ下りる。

アパートの駐輪場の脇にあるでっかい電信柱。

樹齢何百年ですか?と聞きたくなるくらいにでっかい。

私じゃ背に腕を回して上げられないくらいの円柱にごめんなさいね、と声をかけて卵をあててみた。

こんこんこん、小気味いい音。

ぐるっと1回転、卵にヒビが入る。卵の端と端を両手でつかんでわってみる。

ぱっかん、と綺麗な綺麗な卵の中身がアスファルトの上に落ちていった。

ヒビの入っていない黄身。透明の白身にぷっくい浮かぶ。

これこれ、これよ。卵はこうでなくちゃ。

頭にべちょりと濡れた感覚。

手でつむじを撫でつけると、白と茶色の混じった黄身が頭にへばりついた。

髪を噛む癖やめてーなー

あのとき、逃げて正解だったと思う。

強く、強く、そう思う。

今まで逃げた事実が自分の浅ましさだとか弱さとか、無責任さとか自己保身とかを表しているようで、その記憶を消そうと頭を打ち付けたり、大声をだして取っ払おうとしてきた。死にたいなんて言葉を使ってその場限りの贖罪を試みようとしていたけれど、それは全部、逃げた事実に対して行おうとしていたんじゃない。

犯された現実を消してしまいたかっただけだということが分かった。

別に、実際に体をもてあそばれたわけでもないし、そういう行為に及んだわけでもない。

それでも、やっぱり、振り返るとちょっとしたあの人の言葉の気持ち悪さだとか体を見られた時の瞳だとか、そういうものが期待を宿していたものだっていうことが分かる。

あれは、絶対そういう類のものだった。

大人になんてわからないと嘆いて暴れ回っていた私に言ってやりたい。

「おい、お前のしんどいものをやっと見つけられたのは20をこえた私だぞ。つっぱねていた大人がお前をわかってやれる最初の1人なんだぞ!」

なんて。気持ち悪い。

そういう前兆は沢山あった。

当時、運動部に所属していた私は無駄にスポ根漫画の世界に憧れていた。親がそういった漫画を持ってたこともあるし。(スラムダンクとかね、バスケだけに熱中することが正義だとしか思えないだろ)

私は元から固定的な友達がいなくて、いつも流動的なその場限りの友人しかいなかった。人と関係を作る、という隠れコマンド並みの学校の裏設定を頭の足りない私は理解することができていなかった。幼すぎた。精神的未熟児。ガキすぎる私は振り返ると、都合が良い人間だ。グループからあぶれた子は私の側にいけば、とりあえずはクラスのはぶれものになることはなかった。そうして、一定期間、あぶれっ子のお咎めが許されると彼女は私の元から離れ、代わりに新しいあぶれっ子がやってきた。私は中学の時1人で過ごした記憶は沢山あっても、傍には必ず誰かがいた。不思議だ。休日に連絡したり、ましてや遊びに行く子なんて皆無に等しいのに、なぜか私は学校の日常で、傍に誰かがいたという記憶を持っている。そんなに女子のグループでは常に事件が起きていたのか、みんな大人だ。

私は、いつも夢見る子どもだった。そんな現実のいざこざになんて気づかないほどだから、筋金入りだ。頭おかしいんじゃないか、マジで。

そのとき見たものに自分を仮装させることはお手の物だった。私はお姫様になれたし、探偵になれたし、人間と狐のハーフ(不思議な魔術を持った)になることがいつでもできた。イタタタ……

たぶん、そのときハマっていたのがスポ根だったんだと思う。ちょうど、私の友人(仮)Aが運動部に入ることを誘ったし、体を動かすことに関心を示す、つまり子供らしく遊ばない私に苛立っていた父親を安心させたさも相まって、スポーツというものにちょっとした興味を持っていた。とはいっても、興味を持っても私はスポーツすることのキツさを知らなかった。筋トレが体の筋肉を重くさせることも給食を吐くほど外周することも、私は知らなかった。体を動かすことは慣れるまで、結構しんどいことだった。でも、ハジメテって何でもそうなんだよ。私はなんとか、毎日のメニューをこなすために自分を仮装させた。スラムダンクを読んだ。そうだ!私は、桜木花道だ!自分は主人公なんだから、言われたメニューもこなせるし、無駄に自主練だって頑張っちゃう。先輩に近づくことも恐れないし、試合に負けたらこの世の終わりみたいに泣ける(そしたら連載終わっちゃうし)。私は自分の生活を劇的にさせた。無駄に青春なんて言葉を使ってみた。外見を取り繕うことは得意なんだ。馬鹿みたいに、昔から。

先輩から、学校以外で練習できる場所を紹介してもらった。家から自転車で30分ほど走った場所にある小さな遊技場だ。設備は一応、揃っているから来ないかと言われた。もちろん、二つ返事で私はハイ!だ。だって、私、スポ根漫画の主人公だもん。けど、帰り道に私は迷子になった。行きと違う道で帰りたいなんてはしゃいでしまっていた。橋を渡る必要があった。私の家に帰るためには。けど、私は視界にその橋が映っているのにどうすれば辿り着けるのかがわからなかった。その橋は国道にそっていけば、簡単にたどり着けるのだが、私は家の並木道を歩いてみたくて国道からそれた下道を選択してしまった。下道から国道に戻るには遊技場に一端、戻らなくてはならなかったのだけど、もう日は傾いていて暗かった。太陽が無駄に背丈の高い山に隠れてしまって、辺りは暗闇だった。私は泣いた。とりあえず、前に向かって自転車を押しながら歩いてみた。そうすれば、誰かにあえると思った。心細かった。だから、ガソリンスタンドを見つけたときはとても嬉しかった。煌々とした光に救われた。店の人に電話を借りて、母に電話をして向かいに来てもらった。私の頭上にかかる橋を見上げた。橋の街灯から自転車が2台走っているのを見た。先輩だった。目が悪いから、顔の表情は見えない。でも、直感的に分かった。あ、目が合ったって。笑ってたかもしれない。不思議がってたかもしれない。無関心だったかもしれない。けど、私は再び分かってしまった。私は主人公じゃない。少なくとも、あの先輩たちの間では。迎えに来た母は車から降りるとまっすぐに私の元に走ってきて、何も言わずに右手を振り上げた。

私は、学校の部活が急に肩身がせまくなった。気がした。けど、そんなことおくびも周りには示さずに、相も変わらず主人公をしていた。私はコテ入れが必要だと思った。師を欲した。そしたら、気もちのわだかまりがとれるのではないかと思った。相も変わらず、現実を見ようとしなかった。

その人は50を過ぎた人だった。外部コーチだと先輩は言っていた。哺乳類よりも爬虫類に分類した方がいい見た目だった。人を選別するような細い目が理科の授業で見た教育番組に出て来たカメレオンを思い出した。それでも、スポーツに対しては誠実で選手に礼をつくそうとしていたから、人間だということが分かった。

私はその人に習った。休日もその人はいたし、長期休暇も、特に予定はなかったから、ひたすらその人の元に通った。技術はある程度、上達した。地区大会では優勝することもできたし、県大会までなら進むことは簡単にできた。でも、それだけだ。結局、フリなのだから劇的にうまくなることなんてなかった。それでも、私は努力という言葉に魅せられて、そのフリを積極的に行った。

その人は簡単に騙されていた。私は、素直で幼い生徒を装っていたから、そんな気持ちの元に彼の前にいることを気づいていなかった。彼は、私を勝たせることに積極的だった。生きがいのようなことを口にしていた。週に4度は会っていた。フォームを強制するために携帯のビデオに動きをとってもらった。変な癖がついている動きは体に触れて直してもらった。私は、そんなこと勝つためには当たり前ですよね、という顔をしていた。バーカ。

不安が胸に宿ったのは、その人とあって4年目の春だった。来週、大会があるからでてみないかとその人に誘われた。その日は学校の入学式だった。それなのに、私は二つ返事ではい、でますと言っていた。まだ、漫画は打ち切られていなかった。

大会の場所は電車で1時間かかる距離のところだった。その人は車で送ってくれると言ってくれた。お金もかからないし、学校の人にあわないことの安心感から私はその人に厚意に甘えた。それがいけなかった。

大会は2回戦負けだった。すぐに負けて私自身、びっくりした。くやしさよりもなんで私はここにいるんだという気持ちの方が強かった。学校行事をさぼって、新しい出会いをさぼって、私は今、何を手にしているのかと。焦燥感、というものが目の前に現れた。怖かった。急に、何かに置いて行かれているように思った。

その人は惜しかったな、と声をかけて帰る支度をはじめていた。

帰りの車、私は無駄に明るく喋っていた気がする。喋って喋って喋りまくった。その人も笑っていた。なんだか、いつもよりも浮かれているような空気が車内に漂っていた。負けたという事実を2人で消すように努めてもいた。

その人は唐突に言った。もしおれが10代とか高校生だったら、お前のこと好きになっていたかもしれない。ほんとうに突然だった。嫌な言葉を拒否するのが自慢の私の耳すら、その言葉を拾っていた。その人は他にも言葉を続けていたけれど、記憶には残っていない。さっきの言葉の延長をずっと喋っていた。

マックに寄ろう、と言われた。私はすぐに帰りたかった。この場からいなくなりたかった。けれど、断ることを私は知らなかったから、曖昧に頷いてしまった。おごってやると言われた。固形物はのみ込めないと思った。シェイクを頼み、その人はハンバーガ―を食べた。足を組みながら。口の中を見せながら。ハンバーガーを食べていた。租借音は聞こえなかったフリをした。早く帰りたかった。

家の近くのセブンで下ろしてもらった。その人は今日の労いをしてくれた。私は、簡単なお礼を言うと、その場からすぐに去ろうとした。飲んだシェイクが予想外に冷たすぎてお腹をこわしていた。トイレに駆け込みたかった。その人は、今日帰るのが寂しいと言った。名残惜しいと。おもむろに携帯を取り出して、私がいなくなるのが寂しいから少し会えない時のために撮っていいかと言われた。断れなかった。断り方を知らなかった。逃げ方を知らなかった。拒否、というものが私の中に存在していなかった。ピロ、と撮影音が響いた。何か喋ってと言った。けど、言葉は出てこなくて、その人の今日の様子を尋ねる声と私の笑おうとする声だけが携帯の中に吸い込まれていった。動いて、とも言われたけれど、こんな狭い車内でどう動くのが正しいのかわからなかった。私は笑い声に合わせて肩を揺らしてみたりした。

満足したように目を伏せて顔の筋肉が下に全部ずり下がって動画を確認しているその人がとても気持ち悪いと思った。気持ち悪い、気持ち悪い。しゅうしゅう、口から出る息が目に見えた気がした。目に見えないはずのその人の生きている跡が生々しく視界に入ってくるようだった。それはこの車中にこびりついていて、早く家に帰りたくて、私は今日のお礼を手短にいって、さよならをして、家に向かって駆け出した。

何だったんだ、あれは、あれは、一体、何だったんだ。

気味が悪かった。私はそのとき自分の体をリアルに感じていた。

さらに気持ち悪いことに、その日の夜、生理が来た。

もう、最悪だった。全てが最悪だった。

私は、その人のところに行かなくなった。全く、というわけではないけれど。社会人と集まって練習をするときとかもあったから、そういう日はその人と顔を合わせたりしていた。けれど、遅刻をしていくようになった。なるべく、人が沢山集まっているときにあおうとすると、練習が始まってから1時間がたってからになってしまった。それでも、その人は怒ろうとしなかった。遅刻とか、気もちのたるみとかを許せない人だったはずなのに。全く、私に怒らなかった。

ある日、学校の部活が休みだったからいつもより早く電車で家に帰ることが出来た。母も仕事が休みだったから、送ってもらうことにした。電車から降りて駅の入り口に向かおうとした。そのとき、その人が私の目の前にいた。手をあげて、偶然だね、久しぶりと言った。全然、偶然じゃないと偏見まみれに私は思った。これは、絶対。

この前、付き合いたいとか言ったけど、あれは冗談みたいなもので、おれはちゃんとお前を一生徒として接していきたい。育てていきたい気持ちがある。だから、また前みたいに一緒に練習しよう。もっと、上手くなれるから。

言葉が声にのらなかった。笑い声しか出なかった。

ありがたかったのは、まだ日中で駅員さんがいて降りる人も案外いたことだった。そして、母が車で、外にもう待ってくれていたこと。ほんとにほんとにありがたかった。

母が待っているので、と言って私はすぐにその場を後にした。早く発車してと私は言った。けど、母は止まったままだった。どうして、と顔を上げるとその人が私たちが乗る車に向かっていたからだった。その人は私が座る助手席の窓から顔を出して母に向かって言った。娘さん、また練習に来るように言ってあげてください。指導者としても、育てたいんですよ。

震えた。

それでも、しょうこりもなく私は社会人練習に加わっていた。遅刻はしなくなった。その人と顔を合わせないようにすればいいだけだ。あうとしても2人でいる場を割けるよう気を配った。けど、今度はその人は私を家まで車で送ってあげると言った。断った。母が迎えに来てくれるからとすぐにその場を去った。けど、練習場から私の家は近いからいつも歩きであることをその人は知っていた。後ろからクラクションを鳴らして遠慮しなくていいよと車にのせた。私は2分ほどの移動距離をスマホの液晶をずっと開いていた。それがずっと続いた。私はあるときから、車の影に隠れることにした。姿を隠せば大丈夫だと思った。その人の車が練習場から消えるのを待った。帰ろうかと思ったが、私の家路からその人の車が現れるのを見ることを避けたかった。1時間、私は外で車や建物の影に隠れた。人がいなくなるまで、練習場の灯りが真っ暗になるまで。

私は練習場を変えた。その人がいない練習場を求めた。知り合いは何人かいたから、その人たちにいくつか練習場を紹介してもらった。けど、その人は顔がきいていて、私よりも界隈の知り合いが多かった。一か月もするとその人は同じ練習場にいた。そうして、その場では喋らなくても帰りのときに送ってあげるよと言われた。車で帰る方が楽だと言ってくれたけど、もう私は乗れなかった。

それなのに一度、同年代の子にその押し問答を見られたくなくて駅までならと車に乗せてもらったことがある。その人は途中、コンビニによって私にフツーツジュースのペットボトルを私に渡した。駅に一度、つくと周囲には誰もいなかった。まずいな、と思った。家まで送るとその人は言った。私は笑った。笑って、何とか嫌悪を表そうと思った。その人はまだ何かを言っていた。私は電車で帰る、そればかりを言って車を飛び出した。駅員さんがいた。私は駅員さんの近くに身を隠した。帰りの電車はホームの反対側だった。私は外から姿が見えないよう、体を低くして移動した。泣けてきた。靴紐は縦に傾いていて姿がおかしかった。

その人からの電話やメールが沢山きた。怠慢だと私を責める言葉が目についた。無理だと思った。もう、無理だ。私はもう、その人にあわないことを伝えた。練習場にもいかないことを言った。

大会で私に練習場を紹介してくれた子やその人を知る同年代の子が尋ねてきた。その人と何があったの?噂話をするときみたいな軽口で、非難めいた口調でその言葉を聞くと、私がどんなふうに周りから思われていることは分かった。何でもないよ、方向性の違いってヤツ?そんなことしか言えなかった。

逃げて正解だったよ。逃げてよかった。

あなたの感じた違和感と行動は正しいものだった。

よかった、ようやくそう思えた。

ウナるなみ

「引っ越してしまいましょう」

 銭湯からの帰り路、わたしよりも背の低い母は突然そう言った。

 ええ、どこにさ?と素っ頓狂な声を出してみたけれど、彼女はおどけてみせるわたしの声に反応するでもなく、夜空に浮かぶ真ん丸の月を見つめていた。彼女が突拍子もないことを口にすることなんていつものことだけれど、私はつるりと丸い母の顔を横目でちらちらと眺めた。

 母が息を吐く度、白い息が彼女の睫毛にからまっていく。それが凍っているように見えて、ああ、早く帰らなくちゃ湯冷めしちゃうなあ、なんてことを思っていた。

 わたしが一人で銭湯まで歩くには20分もかからないのに、母はびっくりするほどゆっくりと歩くから、その倍の時間はかかってしまう。

 いつまでもわたしは子どもじゃないのにと、無駄な優しさにいつも唾を吐きかけたくなる。わたしは母の手を掴み、冷たくなった手の平の温度を確かめると、ひえちゃったね、早く帰ろうか、と母の手をひっぱろうとした。そんなことをしているから、わたしは年がら年中、肩こりを引き起こしている。

 閑静な住宅街だ。歩く人はわたしと母しかいない。宇宙の先に佇んでいる電信柱とか街灯ばかりが、歩く先を示してくれている。それらが頼りだ。時折、どこかの家やアパートから人の笑い声や叫び声が聞こえてきて、心臓が掴まれてしまう。そんなときはわたし達と違う生き物であることを必死に探す。簡単なことで良い。わたしはくしゃみを吸い込む牛みたいな笑い声をださないとかハスキーボイスで怒鳴り声をださないとか、そんなこと。そうすればわたしと同じ人間じゃないから何も怖がる必要がないって思って脈拍をもとに戻せる。

「ねえ、お母さん疲れちゃうなあ」

 母が私の握る手を左右に揺らして抗議している。ゆうらゆうら影も揺れている。繋ぐこぶしは水の玉とか死骸とか。そんなものでも糸を保ってくれてるんだから感謝しなくてはいけない。

「そうだね、でも早く帰らなきゃお母さんが風邪をひいちゃうよ。1日ずっとお布団にいるのはいやでしょう?帰ったら、足を揉んであげるから、ちょっただけ頑張ろう」

「えー、大丈夫よー、りんちゃんだって疲れちゃうでしょー」

「わたしはね、もう疲れたとかそんなとこにはいないからわかんないなあ」

  体には正しい動かし方というものがある。わたしは母と再び暮らしたその翌年に気づいた。筋肉の筋を正確に動かし、血と細胞の流れを意識すると体は流々に動き出す。空気を割く波の流れをにのってしまえば1日なんてあっという間に終わる。ずいぶん、楽になった。魚や鳥はその一瞬に身を任せているから、自由に体を動かせているのだと思う。わたしもああなりたい。進化を求めるよりも退化を求めている。でも、それでもいいじゃないか、と。上手くいかなかったら一手前戻るとかしてみても。そこからもう一度生きるとかしてみても。後ろを振り返ってばかりの人生だって正しいはずなのに。

治るとか、治らないとか必要なことじゃない。そんな二択を迫られること自体、おかしいよね。わたしは退化していくことに身を任した母が前よりずっと好きだよ。

 母はずっと昔、祖父と2人で海辺に住んでいた。寄せ集めの水たまりに満足なんてしていないから、あなたはそこに帰りたくなる。浴槽に溜まる脂と垢にまみれたお湯でもないし、シンクにはった水道水でもない。そんなもので体は洗い流せない。

「これでいいんだけどなあ」

 月に向かって言ってみる。

「ここはやなんだけどなあ」

 言葉が繰り返される。

 笑いながらわたしは息吐いて、肩にのっかる重みを揺らした。